裁判上の離婚原因
民法第770条第1項で定められている裁判上の離婚原因には,以下の5つがあります。
その1 不貞行為
「不貞行為」とは,配偶者以外の者との性交渉を言い,法律上の離婚原因の第1に挙げられます。離婚に関する法律相談を受けている中で, 最も多いのが,この「不貞行為」のあった場合です。
このケースでいちばん問題となるのが,「証拠」の問題です。訴訟を提起した後,配偶者(「被告」になります。)が不貞行為のあったことを認めた場合には, 不貞行為があったことを証明する必要はないのですが, 配偶者が「そんなこと(=不貞行為)はしていない」と主張した場合には,不貞行為のあったことを「証拠」によって「証明」しなければなりません。
最近では,配偶者が不貞行為の相手方と交わしていたメールやライン,携帯電話やスマートフォンで相手方と一緒に撮影した写真などが「証拠」として提出されることが多くなっています。
また,「証拠」の問題に関し,よく受ける質問は,「興信所(探偵業者)を依頼して証拠をつかむ必要があるでしょうか。」というものです。この質問に対しては, 「ケースバイケース」と言うほかありません。そのほかの証拠によって裁判所が「不貞の事実あり」と認定してくれそうなケースもありますし,決定的な証拠がなく 「怪しい」というレベルにとどまるケースもあるからです。
ただし,興信所に依頼した場合の費用は相当に高額であり,実際にもよくあることなのですが, 「興信所に費用を払ってしまったので,弁護士を依頼して訴訟を起こす費用がなくなってしまった」ということでは元も子もありません。興信所への依頼が必要なケースかどうか, 興信所への依頼をする前に,まずはご相談をしていただきたいと考えます。
その2 悪意の遺棄
正当な理由もなく,夫婦の同居・協力義務や扶助義務を果たさないことを「悪意の遺棄」と言います。「悪意」とは,「知っていながら」という意味です。具体的には,別居してしまい,生活費を一切支払わないケースなどがこれにあたります。
別居していても応分の生活費を送金している場合は,原則として,「悪意の遺棄」にはあたりません。
その3 3年以上の生死不明
配偶者がどこかに行ってしまい,3年間以上,配偶者との連絡をつけることができず,生死すら不明の場合がこれにあたります。
どこで暮らしているかはわからないが,携帯電話に電話をするとたまに通じたり,配偶者からたまに連絡があるような場合には,これにはあたりません(ただし,後に述べる「婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたるケースはあります。)。
この離婚原因は,あまり多くあるケースではありませんが,外国人の方と婚姻したが,その後にその外国人の方が自国に帰ってしまい,連絡が一切つかないケースなどが考えられます。
なお,配偶者がどこかに行ってしまい,7年間以上,配偶者との連絡をつけることができず,生死すら不明の場合は,民法第770条に基づく離婚請求のほか,民法第30条に基づく失踪の宣告の申立てもすることができます。
失踪の宣告の場合は,生死不明になってから7年が経過した時点で死亡していたとみなされることになり,相続が発生するというのが,離婚請求との主な違いです。どちらの申立てもすることができるケースで,どちらの申立てをした方がよいのかは,それぞれのケースで異なりますので,注意が必要です。
その4 強度の精神病にかかり回復の見込みがないこと
民法は,配偶者が「強度の精神病にかかり回復の見込みがない」場合に,その配偶者と離婚することができると定めています。
しかし,この規定については,このような原因で離婚を認めてしまうと,その配偶者の以後の生活が保障されなくなるとの批判が強く,裁判所も,「回復の見込みがないとは言えない」などとして,この規定の適用を避ける傾向が見られます。
また,そのような状態にある配偶者を相手にどのように訴訟を行うのかという問題もあり,ケースによっては,あらかじめその配偶者に成年後見人をつける必要も出てきます。いずれにしろ,大変に難しいケースと言えます。
その5 「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」
自分や子どもに暴力を振るう,言葉で威圧したり侮辱する,ギャンブルなどで多額の借金を作り,それを何度も繰り返す,犯罪を犯して刑務所に収監される,社会的に問題の多い宗教団体に入り,入信を強要する,長期間別居生活が続いているなどのケースがこれに当たります。
ただし,「重大な」という限定がありますので,離婚請求が認められるかどうか,それぞれのケースにおいて具体的な検討が必要になります。ご自分のケースにおいて,離婚請求が認められるかどうか,認めてもらうためにはどのような事情が必要で,それを証明するための証拠はどのように集めたらよいか,まずはご相談ください。